柳沢厚生労働大臣の発言について

 http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/36775/
 いやもう破壊力満点で前後にどんな発言があったのかは知らないが、この一言で文脈のなんぞ全てどうでもよくなるぐらいの衝撃がありますな。

 色々問題はあるがこの発言の問題点について政策と論理の2点に絞って考えてみたい。
 考察の前に私の「生物」一般の見解を書いて置く、私は生物一般を「主にタンパク質によって構成された機械」と捉えている、しかし私は「女性は子供を産む機械」とは捉えていない。この差については考察の中で述べていく。

政策に与える負の影響について

 政治面ではこれが最も深刻な問題だろう。国としては日本人の年齢分布が不均一である事を問題*1とし、これ是正する事を重要な課題としているのも係わらず、その課題是正施策の音頭を取るべき厚生労働大臣の発言が是正政策の阻害要因となり同時にこの問題を真に理解していないことを予測させるものとなっている。
 以下に阻害要因となる要素と理解が不足していると思われる要素を分けて記す。

政策の阻害になる要素について

 自らの発言の影響力を考慮せず、現状「人間の生産」に係わる負担が大きい女性を敵に回してしまっている。出産は自由意思の元で行われるべきであり、本来であれば負担の大きな者達への負担の軽減等の施策*2を通じ「産む気にさせる」事が重要であるのだが、単なるお願いで終わっている印象を持たれる上にその言説が一般に不快と思われるものであれば「少子化問題」を解決しようとする政府の方針にとって負の効果しか生まない。

問題を理解できていないと思われる要素について

 「少子化」が問題になるのは「人間の生産」が行われず、将来社会的役割を担うべき者達が減少し日本の国力が低下すると予測される為である。つまり「子供を産む」事が目的ではなく、その子供が社会的役割を担えるよう成長させる事が目的のはずだ。だから本来国が親となる者に期待することは「子供を産む」だけでは無く、実際には社会の害悪や傷病から「守って」やり、将来社会的生活が問題なく行えるよう「教育し」、金と時間をかけて「育てて」やることのはずである。
 仮に「生まれた子供」がその次の世代を「生産」する事だけに限っても、女であれば16年、男であれば18年の年月が必要であると国が考えている*3以上、「産む」だけでは駄目で「育てる」必要性を国は理解しているはずである。
 そこで「子供を産む機械」のような単機能の機械を連想させる発言を行う時点で「このおやじ、ホントに少子化問題を理解しとるんかい」と疑念を持たれ、「子供を生み、育て」て行くことの負担を軽減を図るつもりが無いと理解されても仕方が無いと思われる。
 本当に「子供を産む」だけで解決できると考えているのであれば、クローン研究の制約を撤廃しその技術を奨励して「子供を産む機械」を作ってしまえばよいのだ。自由意思をもつ人間の尻を叩くより安定して生産できるだろう。

「女性は子供を産む機械である」発言の論理的なおかしさについて

 一般に女性、男性という言葉は生物学的な性別をのみならず社会的な性別の意味も含む。そのため生物学的な意味の「男性、女性」を指す必要がある場合この文中では「雄、雌」と標記する。

 私はこの文の冒頭で「生物は機械」であると記した、そして同時に「女性(雌)*4は子供を産む機械」とは私は認識していない事も記した。私は人の雌とは「Y型遺伝子を持たないもの」、人の雄とは「Y型遺伝子を持つもの*5」と考える。
 柳沢厚生労働大臣の発言のとおり仮に「女性(雌)は子供を産む機械」だと定義すると、「Y型遺伝子を持たないもので子供を産む機能がなんなかの理由で動作しなくなったもの」は何者なんだと言うことになる、彼らはすでに雌ではないのか?。
 むろん実際にはそんなことは無く子供を産めないからといって雌として生まれたものが雄になったりそれ以外のものになったりすることは無い。歳をとって閉経したり事故や病気その他の理由により子供を産めなくなっても人の場合雌として生まれたものは雌のままであり、雄として生まれたものも生殖の機能を失ってもまた雄のままなのだ。ある意味非常につまらないのだが我々人は自分の意志で雌雄を選択する事ができない*6。そしてそれに一生つきあっていかなくてはならないのである。

まとめ

 長々と書いてきたが、こんな事はわざわざ言われなくても殆どの人は経験的に理解していることだろう。だからこそ多くの人が柳沢厚生労働大臣の発言に対し不快感を示し異を唱えたのだ。
 彼の発言で発生する不利益*7自民党は認識ししかるべき処置*8を執るべきであると私は考える。

*1:私は日本の人口が減る事は不利益ばかりでは無いと思っている

*2:例えば婚姻を役所に届けることにより税の減免を始めとした特例を受けることができるのは「人間の生産」を推奨しているための一つの施策であると考えられる。そのため肉体的な性が男と女の組み合わせでしか婚姻届は受け付けられない

*3:婚姻届がその年齢まで受理されず、それによる恩恵にあずかれないと言うことはそれより若い年齢による「人間の生産」は望ましくないと考えていると言うことである

*4:柳沢厚生労働大臣の発言意図から彼の言う「女性」は生物は学上の「女性」つまりこの文中で記す「雌」と判断する

*5:厳密にはSRY遺伝子が機能したものと書くべきだが

*6:もちろん、生物学的に決定された性に関わらず「らしさ」を選択する自由は個人にある

*7:社会に与える不利益と党に与える不利益の両者

*8:明確な少子化対策案を提示したりする等